ワインコラム
ヴィンテージから考えるワインの楽しみ
 ヴィンテージとは
 良いヴィンテージ=美味しいワイン?
 ワインを楽しむ
ヴィンテージから考えるワインの楽しみ

ヴィンテージとは
ワインを購入する際に、そのワインの生産者や銘柄と同じくらいポイントとなる点がヴィンテージ(収穫年)です。 ワインの質は原料となるブドウの質に大きく左右されます。ブドウは農作物ですから、当然その出来具合は毎年異なり、良い年があれば悪い年もあります。 またワインは同じ醸造酒の日本酒などと比べ、醸造上の特性から原材料による影響が直接的かつより顕著に現れます。
気温が低くて果実が十分に成熟しなかった年や、降水量が多くブドウが水脹れしてしまった年に、高品質のワインを造ることはとても難しいことです。 その為、同一銘柄のワインであっても、ヴィンテージの違いにより、値段がかなり違うと言う事態も多々起こります。
ですから、そのワインが何年に収穫されたブドウを使っているのかという事を表すヴィンテージは、消費者にとってワインの品質をある程度推測する目安となるのです。 その為ヴィンテージを知ることは、ワイン選びの大切な指標の1つといえます。
しかし仕事や趣味として日常的にワインに携わっている方ならいざ知らず、一般消費者の方がヴィンテージの良し悪しを覚えることは、なかなか難しいものがあるのではないでしょうか。 あの年のボルドーは日照量が多く果実の成熟度が高いだとか、この年のブルゴーニュのその村では収穫期に雨が降ったから出来が良くない、なんていう話はよっぽど興味のある人間以外にはまったく面白くないものですし、覚える気にもならないでしょう。 でもワインをせっかく買うのだから、やはり品質の良いものをと思うはずですよね。そんな時、消費者の手助けになってくれるのがヴィンテージ・チャートです。
ヴィンテージ・チャート ヴィンテージ・チャートとは、その名の通り収穫年ごとのワインの品質を数値化した表のことです。 一般的には5点ないし10点を満点と設定し、各年・各産地ごとのワインの出来を点数で表しています。また点数ではなく「秀逸」「優秀」「平均」などと表すこともあります。 その記載内容も様々なものがあり、フランスやイタリアやドイツといったヨーロッパ諸国だけでなく、アメリカやオーストラリアといった世界各国の産地を表すものや、なかにはラ・ヴィネでも使用しているような、飲み頃の表記がされたタイプなどもあります。
このチャートとこれから購入しようとしているワインを照らし合わせてみれば、手軽にそのワインのおおよその品質がわかるので、一般消費者には非常に便利なツールとなっています。
このように確かにとても便利なヴィンテージ・チャートですが、いくつかのチャートを比べてみると何かおかしな点が浮かび上がってきます。 そうです、同一年の同一産地の評価がチャートによりあきらかに異なっている場合があるのです。 なぜこのような事態が起きているのでしょうか?
そもそもこのヴィンテージ・チャート、実は公式の評価というものが存在しません。各地のワイン団体や評論家などが、気象データや政府の公報、実際の現場の声などを基にしてそれぞれ独自に作成しているのです。 その為ワイン協会や委員会などの生産者サイドのチャートと、評論家や研究家が作成するそれとを比べた場合では、当然のことながら生産者サイドの点数付けの方が甘くなっています。
実際、メドックのとあるワイン委員会が発表しているヴィンテージ・チャートにおいて、「平均」以下の評価が下されている年はありません。一般にオフ・ヴィンテージとされている非常に難しい年ですら、失望させられた年とのコメントながらも評価は「平均」となっています。
また評論家などが作成したチャートの場合でも、その作成者自身が好むスタイルのワインが高く評価されている傾向が見てとれることがあります。
ですからヴィンテージ・チャートを参考とする際には、作成者の情報をふまえつつ、それぞれのチャートの特性をつかむ事がポイントになってくるでしょう。

良いヴィンテージ=美味しいワイン?
以前とある高級ワインを飲んだお客様から、「当たり年のものだから是非にと進められたワインが、高いわりにまったく美味しくなかった。」というお話を伺いました。 よくよく話を進めてみると、そのワインは当時リリース直後だった2000年のボルドー格付け第一級シャトーのワインでした。
2000年のボルドーは世紀のヴィンテージといわれるほどの当たり年でした。 6月、7月こそ天候不順だったものの、7月の終わりから好天が訪れ、収穫期まで理想的な気候が続きました。その為、左岸・右岸のどちらとも驚くほど高品質なブドウを収穫することが出来、そのブドウから造られたワインは、凝縮感のある非常にポテンシャルの高いスタイルとなりました。 もちろん高い醸造技術と豊富な資金を持つ格付けシャトーにいたっては、その傾向がより顕著に現れているといえるでしょう。
また生産者だけでなく評論家やマスメディア等の間でも、世紀の当たり年とのキャッチフレーズが声高に叫ばれた為、消費者の購買意欲をそそりました。 当然あらゆるヴィンテージ・チャートにおいても「9~10点」「例外的な出来」との評価が踊り、その結果この年のボルドーワインは需要過多となって瞬く間に価格が跳ね上がったのです。
ここで冒頭のお客様の話に戻りましょう。 なぜ件のお客様は、これほどまでに各方面から賛辞を浴びた高評価の2000年もののボルドーワイン、しかも格付け一級シャトーの偉大なワインを美味しいと感じなかったのでしょうか。
普段からワインを飲みなれていなかったから?
それもあるかもしれません。
たしかに高級といわれるクラスのワインのなかには、普段からワインを嗜んでいない方にとっては飲みにくいと感じてしまうものもあります。 もちろん単純に好みに合わなかったということも考えられるでしょう。
しかしこのケースに限ると、おそらくは本当にただ美味しく感じられなかったのだと思います。なぜならば、このワインはまったく飲み頃を迎えていなかったと考えられるからです。
ボルドーの格付けシャトー、それも第一級シャトーのワインともなればそのポテンシャルの高さは計り知れません。凝縮した風味にしっかりとした構造、複雑な味わいと長く続く余韻はまさにワインの醍醐味と言えるものです。
しかしこれらの卓越した味わいが花開く為には、優に10年~20年の熟成を必要とします。それが、世紀のヴィンテージともいわれた長期熟成タイプの2000年のものともなれば、尚のこと時間が必要となるのです。
実際私も、とある格付け第一級シャトーの当たり年のボトルをリリース直後に試飲する機会が何度かありましたが、舌触りが粗く、香り・味わい共に内にこもっていた印象がとても強く残っています。 もちろんポテンシャルの高さや熟成の可能性は十二分に感じることは出来たものの、今飲んで美味しいかと問われるとノーと言わざるをえませんでした。 前述のお客様は、おそらくこれと同じようなことを感じたのだと思います。
すべてのワインには、それぞれ独自のスタイルと飲み頃というものがあります。 どんなに高級な銘柄で高得点なヴィンテージであっても、そのスタイルと飲み頃を見誤れば、本来の味わいを楽しむ機会を逸してしまうこともあるのです。

ワインを楽しむ
ワインほど多くの異なる味わいを持つお酒は他にありません。 産地や銘柄、造り手だけでなく土壌や気候、保存状況など変数となる要素が多い為、それこそ1つとして同じ味わいのものはありません。 しかしだからこそ古の昔から、ここまで多くの人々を魅了してきたのだと思います。 いくら素晴らしいものだとしても、すべてのワインが同じ味わいだったならば何の面白みも無いでしょう。
そして同じようにワインの楽しみ方も、人それぞれなのではないかと思います。 ただ美味しいものを飲みたい方や、熟成した風味を楽しみたい方、好きな造り手や畑のものだけを求める方。 またヴィンテージについても、困難な年のものを飲み、造り手の努力を垣間見ることに価値を見出す方もいるでしょうし、なかには前述のような偉大な年のワインをあえて若いうちに飲み、その熟成した将来の味わいに思いを馳せることを楽しむ方もいるかもしれません。 ですから必ずしも高級で点数の高いヴィンテージのワインが良い、とはかぎらないのではないでしょうか。
近年の日本では、専門誌の点数やヴィンテージ・チャートの評価のみでワインの価値が決まってしまうかのような傾向が見てとれます。 また我々ワイン業界の人間も、やれ何点のワインだ、やれ当たり年だと吹聴し、その傾向に拍車をかけてしまっているきらいがあるのも事実です。
しかし、こういった専門誌の点数やヴィンテージ・チャートは、あくまでワイン選びの指標の1つであるということを忘れるべきではないと考えます。 先にも述べたとおり、すべてのワインにはそれぞれの個性や飲み頃があります。 ですから私は、そのような数値化された評価のみならず、自分自身の感性でワインと向き合い、1つ1つ異なるその個性を楽しんでいきたいと思っています。 そしてお客様のご相談に乗る際にも、上記の考えを念頭に置きつつ、様々な角度からご希望に沿ったワインをご提案することを心がけております。
お客様の中には、知識が無いとスタッフに相談することに不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。私もワインを飲み始めた当初、ショップに行ってもなかなか店員の方に話しかけられなかった記憶があります。しかし当店は、お客様一人一人とゆっくりお話しする接客スタイルをとっておりますので、あまり堅苦しく考えずに迷った時はまず一言ご相談下さい。そしてご一緒に、楽しくワインを選びましょう。
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